since 2018.01.01

1991年生まれのライター/千葉/ボカロ、歌い手界隈中心

持ちつ持たれつの関係性で互いの力を最大限に発揮したDoctrine Doctrine 第2弾の京都ライブも発表


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7月21日に宮下遊とseeeeecunによるDoctrine Doctrineが東京・WWW Xで『Darlington』発売記念ライブ"Conference"を開催した。

宮下遊は、名前の「遊」の意味そのものを思わせるように自身の声と遊ぶのが得意だ。声色は楽曲ごとに変化させ、透明感があり美しい。また、seeeeecunはボカロPだが、一方でサラリーマンを兼ねている。2000年代UKロックの影響を受けた彼はロックならではの耳から離れないような中毒性ある楽曲を作るが、特に現代の日本の裏社会を包み隠さないような剥き出しの歌詞が目立つ。だからこそどちらかといえばアウトサイダーを支持するものたちに鼓舞されるのだろう。

 

今回のライブでは、観客600人が集まったのだが、宮下遊、またseeeeecunにとっても、予想を超えた人数だったという。会場が600人の観客でいっぱいに埋め尽くされたのは6月20日にリリースされた1st アルバム「Darlington」で宮下遊が持つ声の中毒性とseeeeecunの中毒性ある楽曲の世界観がうまくマッチし、深度の高いサウンドを生んだからなのだろう。ちなみに宮下遊の声における中毒性のことをファンのあいだでは「遊毒性」というらしい。

 

seeeeecunの働き方を聞くと"羨ましい"やら"忙しそう"やら"辛いならサラリーマン辞めちゃえば?"など、色々と思うことがあるだろう。この件についても少しだけ触れたい。「Darlington」に収録され、7月20日にMVとしても公開され「Darlington」の中で1番周りからの評価が高かった「モディファイ」は、実はseeeeecunが本当に仕事が嫌になった時に作った曲だという。日々刻々と時間と身を削られるようなサラリーマン生活をしているからこそ生まれた楽曲「モディファイ」が世に出て、このように立派に独り立ちしていくのであれば、サラリーマン生活も悪いことだらけというわけではないのではないか。むしろ元はといえば、サラリーマンだからこそ生まれた楽曲なのであって。つまり、2足の草鞋を履くことは、人生を輝かせる秘訣を握っていることもあるといえるだろう。

 

 開演時間まで流れていたBGMが止まるのと同時に、照明が静かに落とされる。ステージの大画面ディスプレーにはユニット名とDoctrine Doctrineのマスコット(宮下遊、seeeeecun)が表示され、「In Darlington

」の深い振動音からスタートした。会場が心地良いグルーヴに包まれた後には、歓声と共にサポートメンバーのマロン菩薩(G)、松ヶ谷一樹(B)、Sugisaki Naomichi(Dr)、そしてseeeeecunと宮下遊が登場。

「ヘレシー・クエスチョン」では、宮下遊の畳み掛けるような会話調の低い声が印象的なのだが、その心地良いフレーズのところでは「生で聴けた!」といわんばかりに、観客の喜びが熱となって一気にステージに上る。その熱を受けて、声に宮下遊らしさを発揮してきたのもちょうどこのあたりだ。ここから宮下遊が本気で声の遊びに入る。
タワーレコード限定販売の「あのプリズムによろしく」も披露され、透明感ある声が綺麗に伸びた後は、心にジワっと沁み入むメロウな楽曲「シニヨンの兵隊」へと繋ぎ、丁寧に観客の心に染み込ませていくように優しい声で歌唱。「バーバリアン・シネマズ」では、カラフルな照明がステージを照らし、まるでダンスフロアのような会場に。次はシャボン玉の泡が楽しそうに飛ぶような歌声で、会場全体を魅了し、会場にいる大半の人が思うままに身体を揺らし、楽曲を心から楽しんだ。

 

MCに入るとseeeeecunが今にも溢れてしまいそうな素直な気持ちを格好など付けずに思いのままに客席に向けて飛ばす。
「面白い!やばい!楽しい!」

すると宮下遊が「せめて中学生レベルの感想にして!」と突っ込みを入れ、途端に笑いが沸き起こる。ライブ中のMCでは、本当にうまい具合にseeeeecunの話の最後に逐一宮下遊が突っ込むので、コントのようになり2人の息が合っているのが目に見えてわかった。

 

力強い声から始まった「ヌギレヌ」の後には15分の休憩を挟み、後半戦がスタート。


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 「Bells」「脳内雑居」そして宮下遊の味をも知らしめるようなシックな楽曲「モディファイ」という流れだったが、「モディファイ」には強い思い入れがあるということで、seeeeecunは「この曲は本当に周りからもお客さんからも評価が高くてね。モディファイのMVは絶対作ろうと思っていて、作りました。」と話し、宮下遊と共に、MV制作に関わった関係者と観客に向かって礼の言葉を述べた。肝心な歌については、CDの音源でも十分美しいのだが、それをも確実に超えていた。また、サビ前の"マリア"という部分は宮下遊自身、歌うのに結構苦労した部分だったとのことだが、CD音源でないというのにも関わらず、"遊らしさ"を出し、観客の想像キャパを超えていた。人は一言うまい言葉を掛けられただけで、心理的に心を許してしまうことがある。その感覚と似ていて、"マリア"といわれるだけで、心を許してしまいそうになるようなそんな言葉の破壊力がたった3文字に宿っていたようだった。宮下遊からは、そのようなギルティ的な匂いが香ってくる。

中でも、この日恐らく1番盛り上がった楽曲は「雲散霧消」で、サビの最後の宮下遊のはっちゃけたような"Ah!!"という甲高い声が好きという人は多い。というよりかファンなら間違いなく好きだろう。同じ空間にいるからこそ聴けるその生の声に観客も狂ったように吠えるという構図で出演側、客席側の互いの熱が確実にヒートアップしていった。披露後には、seeeeecunが「誰が作ったの?この曲かっこいい!!」と「雲散霧消」を自賛し、その後には「最後は、みんなに歌ってもらいたい歌を披露します!」といって「ローファイ・タイムズ」を披露。人の不幸は蜜の味を歌ったような楽曲で不思議と聴き込むほどに深みにハマっていく。こちらも「雲散霧消」に負けじと盛り上がり、観客の「ローファイ・タイムズ!」という声がひとつになり会場全体に響いた。

 

MC中にはseeeeecunが「オープニングで、ディスプレーにさなぎ(みつきさなぎ)のアイコンが映った時"ついにここまで来たか"」と改めて実感したと、涙ぐむ場面もあった。しかし、バンドメンバー紹介時にseeeeecunがseeeeecunと宮下遊に対する観客の声のボリュームを比較してしまい、「あ、負けた。もっと声が欲しいです!」といって、みんなで(宮下遊も)「seeeeecun!!」と盛り上げる場面もあり、まだまだこれからだ、という気持ちになっていたのだろう。きっと彼は自身の素直な一面により、どんな悪なことでも包み隠さず歌にしてしまうのだろう。一方で宮下遊は歌唱しながらseeeeecunをたまに確認しては、落ち着いた楽曲では丁寧に1曲1曲を観客の心に染み込ませるように歌い、ロックチューンでは、力強い声色に変えて歌った。またseeeeecunが話した後には間を置くことなく、突っ込むことでseeeeecunをフォローし、観客を楽しませていた。互いがその場にいて、Doctrine Doctrineが成り立つ。

 

アンコールは「テイクアウト・スーサイド」で締めくくり、サポートメンバーとseeeeecun、宮下遊の順にステージを去った。

その後には、大画面のディスプレーに「モディファイ」のMVのイントロ部分が流れ始めたが、すぐに画面が切り替わり9月22日に京都・京都FANJでライブ『Darlington』発売記念ライブ"Conference"Vol.2を開催することが告知された。

その瞬間に「えーーー!!!やばい!!絶対行く!!」といった声が上がり、最後まで熱が冷めることなく、この日のライブは終了した。

 

 

 

Doctrine Doctrine「『Darlington』発売記念ライブ"Conference"」2018年7月21日 WWW X セットリスト
01. In Darlington
02. ルサンチマン・クラブ
03. ピルグリム
04. ヘレシー・クエスチョン
05. あのプリズムによろしく
06. ホワイトダウト
07. マイ・ディスカバリィ
08. シニヨンの兵隊
09. Barbarian
10. バーバリアン・シネマズ
11. ヌギレヌ
12. Bells
13. 脳内雑居
14. デジャヴ・ラブユー
15. ダンスワナビーダンス
16. モディファイ
17. ギルティダンスは眠らない
18. 雲散霧消
19. ローファイ・タイムズ
《アンコール》
20. テイクアウト・スーサイド