since 2018.01.01

1991年生まれのライター/千葉/ボカロ、歌い手界隈中心

羽生まゐごの「鬼の居ぬ間に」を中心に。

すでに、533万回以上再生されている「阿吽のビーツ」(YouTubeでは、2017年8月20日公開)をはじめとして、琴、三味線、笙、尺八、太鼓、摺鉦など和楽器の音を鳴らし続ける、羽生まゐご。

ボカロ界隈で和に特化して独自の世界観を生み出しているボカロPは果たして、ほかにいるだろうか。

これまでにも、和を用いたボカロ曲はあるにはある。しかし、それらは基本的にバンドサウンドが中心のもの。現時点で彼以上に和の音空間を打ち出しているボカロPは、正直のところ、いない。

和を駆使した羽生の音楽が、どのボカロ曲にも似ることがないことは、彼が、これから先のボカロシーンを悠々と渡り歩いていくことのできる意味を指しているのに他ならない。

「阿吽のビーツ」のほかに彼の動画で再生回数が高く、注目されているのは、257万回再生(9月19日現在)の「懺悔参り」、178万回再生(9月19日現在)の「ハレハレヤ」など。

羽生の唯一無二なサウンドに惚れ込んでいるアーティストは多い。例えば、歌ってみたシーンで歌ってみた動画を投稿している、Souやまふまふ。さらに、歌い手シーンから少し離れれば、昨年リリースしたアルバム『私的旅行』に羽生作曲の「蝶々になって」を収録したDAOKOもそのひとり。

続々と自身のファンを増やしている羽生であるが、9月12日には、昨年10月3日に1stフルアルバム『浮世巡り』をリリースして以来、待望の新曲、「鬼の居ぬ間に」を投稿した。

魔性のカマトトは主人公・カマトトにまつわるシリーズもの。今後さらなる広がりを見せるという。

第1話となる「鬼の居ぬ間に」のなかの主人公は、商店街に住むタバコ屋の娘・町子。


羽生のボカロ曲は基本的には、ボーカロイドをflowerとしており、荘厳な楽曲にその骨太な声が似合う。しかし、今回歌声を披露したのは、透明感のある生身の女性ボーカル(猫屋敷)。

なぜ、透明感のある歌声なのか、それは、「鬼の居ぬ間に」が、これまでの羽生の楽曲のサウンドと味が異なっていることが大きいように感じる。同曲は、柔和なピアノの音色に、琴や尺八などの和楽器が新たなメロディーを付加することで、より楽曲全体に滑らかさを生んでいるような、静謐で優しい楽曲。それだけに、軽やかなサウンドに似合う透明感のある女性の声色を選んだのだろう。YouTubeアカウントのほか、ニコニコ動画に投稿された同曲で、歌を披露しているのは、flowerではなく、声の優しい初音ミクボーカロイド、生身の人間の歌声にしても、サウンドに同居させたことが、安心感の与える居心地の良さを提供することに繋がったのだ。

また、時々、流れる琴の音色が、MVにも映る、雨の落ちていく音を表現しているようで、どことなく、切なさを滲ませる。

いままでの羽生の楽曲とは、物語の展開も、サウンドも、色を変えた「鬼の居ぬ間に」。

町子の次にスポットライトが当たる主人公は、誰なのか。

物語は続く。